共犯のほほえみ
  ――あぁ、それならきっとあのへそまがりな方の仕業ではないですか? 何か力の干渉を感じましたからね―――――
「はぁ〜ほんと冬場の菜園担当は美容に悪いわ」 自らの両手を目の前に掲げため息をもらす女性が1人―浮城の捕縛師サティンである。 作業用にと、いつもよりきつめにまとめていた砂色の髪を解放し、ふわりと広がった髪を苛立ちげ 後ろへと梳きながす。   「・・っ痛。」 あっ、そうだった・・・早く万能軟膏のお世話にならないと 冬の冷たい水と土の洗礼ですっかり荒れてしまった手には、少々の刺激でも十分痛い。     「美容とはよく言ったものだな」 「なっ・・・・何??」 胸の中で実家自慢の軟膏に思いをはせ足早に部屋へと向かっていたサティンの前に 黒髪・黒い瞳 の妖貴以外の何者にも見えない青年−鎖縛が現れた。     「鎖縛じゃないの、いったい何なのよ、唐突に」 黒塗りの美形の男と言ったら、浮城にはこの自分の護り手−現在、関係改善中−しかいないとわか っていても突然目の前に現れてくれたらびっくりする。    「美容とはよく言ったものだな」 とっさに何を言われたのかわからなかったサティンにもう1度同じ調子で先程の言葉を繰り返すこ の男もたいがい性格が悪いようだ。   「美容??・・・・・あぁ、手荒れのことね。  んっ・・・ってそー言う意味な訳ね〜」 サティンの目がすっとすわった。 でもそれは、以前―この新しい護り手と組むようになった頃― のものとは違う前向きな光を宿した、喧嘩腰の視線である。     「いきなり現れてケンカ売ってくれるなんて、あなたもたいがいここに慣れたみたいじゃない?  あのね、女の子はねぇ、誰でも綺麗になれる可能性を追求するべきなのよ!  だいたいねぇ、魔性のお偉方なんかを目指してるわけじゃないんだし、  誰と比べての綺麗さを目指してるわけじゃないんだから!!  私は私、あなたはあなたでしょう?  そんな風に後ろグチグチしてるから、身も心も根暗になるのよ!」   「何をいっ・・」   「もちろんあの子はあの子だし、あの人はあの人なんだわ!」   「ふん・・知った風なことをよくしゃべる口だ。」 ふてくされた鎖縛がぼそりと返す。 こちらも以前とくらべ、顔に表れる感情が格段に −以前はと言えば、表情に上るのは諦めと自嘲、 そして憎悪と悔苦ばかりであった。− 増えていた。 それは、サティンに限らず全てに対してがんじがらめに偽物の自分を警戒していた鎖縛とは明らか に違うものであった。     「だいたい、オレはべつに誰かを引き合いに出した訳じゃない。  ただ美容がどうしたのだと聞いただけだ。」 「あーそうなの。  別に女の子の美容術にケンカ売りたかったわけじゃないのね。  ならいいのよー。衣於留さんにも女の子の開花物語について講義に来てもわらなきゃならないか と思ったわ」 「なっ・・・。」 人の悪い笑顔と一緒に、現在鎖縛が最も苦手としている、最強タッグのパートナーを持ち出してき た例のクーダル帝国での一件以来、セスランともどもこの浮城を気に入ってくれた妖貴・衣於留は、 どういうわけかサティンと意気投合していた。 そしてその団結力は鎖縛に対するときに最も効果を発揮し、とても鎖縛の手に負える代物ではなく なっていたのだ。   「さぁ、どいてちょーだい!  私は部屋に帰って、少しでも早くこのあかぎれの手と対決しなくちゃいけないんだから。」 「人が聞いてやっているのに、勝手なやつだ」 「へっ?」 とまどうサティンを残して鎖縛がその身を宙へと滑り込ませてしまった。   なに?・・・もしかしてあの子、私の手を気にして来てくれたわけ?? すでに思考の中であの子扱いの鎖縛を思って微苦笑しながら 廊下曲がりかけたサティンの耳になにやら不穏な話し声が飛び込んできたのは、まさにそのときだ った。         「――――――」 「―――あぁ、今度の仕事先でなんだよ。  まったくあの娘のおかげでこっちまで迷惑だって言うんだよ。」 「そりゃ、災難だな。まったくお偉いさん方も何してるんだか。  悪い芽は早めに摘んどけってさんざん言ってたのな。  あんな人だかもあやしい娘を野放しにしておくなんてどうかしてたんだ。」 「あぁ、その通りだ・・・・あ、おい。」   「あぁ・・・・やぁ、サティン。」 にこにこにこ・・・・・ぎこちない笑みでごまかす2人。   「こんにちは、ギルティス。サンディア。  お帰りなさい、仕事無事済ませてみたいね。  今、急いでるのよ。では失礼。」     こういう人間もいる。 問題の娘の最有力に近しい存在とされてるサティンに対して、直接イヤミを言ってくる人間も多い。 こいつらは相手にする必要もない存在だ。 サティンは割り切ろうにもむかむかと腹立たしい気持ちを抑えて、わざとらしい笑顔で立ち去ろう とした。     ――――ドサッ 「うわっ」 「痛っっ。」   「おやおや、すみませんね。  急にバランスが崩れてしまって。  いっぺんにたくさんの本を持つものではありませんねぇ。  前が見えていなくて。 大丈夫ですか?」   どうやって持ってきたのか分からないような大量の本を豪快にばらまいてくれた年中笑顔の永遠の 青年は とても申し訳なさそうにそう謝罪した。      「セスランっっ!!」 「はい?」 三人三様な声音の合唱に、ニコニコとかわらない笑顔を返すのは捕縛師セスランであった。     「あっ、大丈夫ですよ。サティン。  ここまでなんとか持ってきたのですしね。部屋はすぐそこですからね、持っていけますよ。」 「いいえ、私も暇をもてあましてたとこですし。  少しならお手伝いしますよ。  さぁ、行きましょう。 じゃぁ、失礼。」 手近の本をいくつか腕に抱き、先とは違う言い訳と共にサティンは率先して歩き出した。   「おやおや・・・。  それでは、ギルティス。サンディア。  ホントに申し訳ないことをしました。  何かあった時には、教えてくださいね・・・何せ頭ですから」 と、2人にしてみては恐ろしい以外の何者でもない笑顔を残してセスランもサティンの後を追って 消えた。     「・・・・おい。セスラン、聞いてたと思うか?」 「・・・・・・・・。」       ――――――――――――   「はい、どうぞ。」 「ありがとうございました。  いやぁ、すみませんでしたね、サティン。」 「いいえ、私も早くあそこから退散したかったので、助かったくらいです。」 「おや、何かあったのですか?」 「えっ?・・違ったんですか??」 「なにがです?」 相変わらず裏の読めない笑顔ながら、不思議そうに尋ねるセスランに疑いを抱きながらも サティン はさきほどの顛末を話すことになったのだ         ―――――――― ―――――――――――― ――――       「・・・・・鎖縛いる?」   「―――――何のようだ。」 「あなた、あの時まだ近くにいたの?」   「なんのことだ?」 鎖縛のムッツリとした表情の中に、かすかなテレの色を見つけ、サティンの口元に笑顔が上る。   「ううん、何でもないの。」 「何を言ってるんだ?おかしな女だな」 「うふふ。  ただ、さっきまですごく腹立たしかったのになっておかしかっただけよ  ありがとね。」 「オレはおまえのために何かした覚えはない。」 「わかっているわ。」 「さっきから何を言ってるんだ。オレは何もしていない。  用もないのに呼び出すのはやめてもらおう。  オレはおまえの暇つぶしの相手をすることまで強制されたわけじゃない。」     そのまま不意に宙にとけた鎖縛のいた空間をみつめ、 サティンは初めてあの不本意であった護り手に共犯めいた気持ちを抱いたのであった。    まだ好意を持つには時間がかかりそうだけど、それでも、関係改善は確かに進行中であるらしい…         ――あの子のために怒ってくれる存在が嬉しいんだから―― そう心の中に宿った暖かいものに理由を与えながら・・・・。   
    ――あぁ、それならきっとあのへそまがりな方の仕業ではないですか?   何か力の干渉を感じましたから。   言ったでしょう?突然バランスが崩れたって。   私があの場で聞こえたのは、あなたが会話加わったあたりからですよ。   まぁ、聞こえていたら、私自身の不慮の事故と言うことも有ったかもしれませんけれどね――

END


 
BACK


ミーシャのサイト「オープン記念」として頂きました。ありがとう嬉しい!!
私結構サティン&鎖縛カップル好きなんですよね。セスランには悪いけど。(笑)
二人の仲が少しでも進んだらいいなぁーv前田先生続編はいつですかっ!?(爆)